“レーシングシミュレーター”と聞いて、どういったものを想像するだろうか。実車とは違うモノ、所詮ゲームの延長線上だと考える人も少なくないだろう。
しかし、F1チームやプロのレーシングドライバーが実際にトレーニングで使用したり、シミュレーターでトレーニングを積んだドライバーが実戦で好成績を上げるなど、いまやその重要度は飛躍的に増していることも事実だ。
そんなレーシングシミュレーターについて、ZENKAIRACINGはどう考えているのか、そもそもシミュレーターとはなにか、ZENKAIRACINGのモーションシムの誕生秘話などを、全3回にわたって紹介していく。
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■そもそもレースシミュレーターとは?
ずばり『実車の動き、走りを疑似体験するもの』である。
それはいったいどういうことだろう? まずはとにかく、レースシミュレーターに乗り込んでみよう。
シートに座り、ステアリングを握り、ペダルを踏み込む。すると画面内の車両は動き出し、可動式のシートからは車両の動きが事細かに伝わってくる。
丁寧に走らせればクルマは丁寧な挙動を示すが、ちょっとでも乱暴に運転すればクルマはすぐにスピンしてしまう。
これは実車とほぼ同じ現象であり、実際の世界で起きていることを疑似体験していることになる。
しかしこれはあくまでも“疑似体験”。ドライバー本人に錯覚を起こさせているに過ぎない。
実車に乗ったことのある方であれば、ここでひとつの疑問が生じてくる。
“わざわざ錯覚を起こさせてまで練習をする必要があるのか?” “実車で感じ取れる感覚をわざわざ錯覚を用いてまで表現する必要があるのか?”
その答えは、『必要がある』だ。
■シミュレーターにはシミュレーターの練習がある
実車でのレースやサーキット走行を経験した人が必ずといっていいほど口にする言葉がある。
「実車と違いすぎる」
それもそのはず。目の前にしているものが実車ではなくシミュレーターだからだ。では、なぜわざわざシミュレーターを活用するのだろう。
それは『実車ではできない、シミュレーターならではの練習をするため』だ。
至極当然のことではあるが、シミュレーターではタイヤや燃料、修理費の心配をする必要が一切ない。またクラッシュしても怪我をすることはまずないだろう。
そのため、ブレーキングポイントを普段よりも奥にしてみたり、わざとマシンをスライドさせながら走ってみたり。危険を伴う練習が可能だ。
また、実際に走ったことのないサーキットの予習にも大いに役に立つだろう。こうして得たドライビングの引き出しは実車に乗るとき、必ず役に立つものであるのだ。
シミュレーターで得られる見地はシミュレーターでしか得られない。また、逆を返せば、実車で得られる見地は実車でしか得られない。つまり、
『実車の練習は実車でするべき』なのである。
シミュレーターにはシミュレーターの活用方法があるということを理解したうえで、シミュレーターを活用することがもっとも重要であり、そのことをシミュレーターを使う人はもちろん、シミュレーターを作る側も理解することが必要なのだ。
■“高精度のシミュレーターに必要なコト
以上のような練習をおこなうためには、高精度なシミュレーターの存在が欠かせない。あまりにも現実からかけ離れたモノではまったく練習にならなくなってしまう。
しかし、シミュレーターはあくまで錯覚であり、疑似体験。そのなかでよりリアルなシミュレーターを作るには、車両の高い完成度、コースや路面の的確な再現、ドライバーに伝わるフィードバックのリアルさなどが求められる。
これらの要素を高い次元で表現することにより、“的確な錯覚”が生まれ、よりリアルで高次元のシミュレーターが完成するのである。
それでは“的確な錯覚”を起こさせるリアルなシミュレーターに欠かせない要素とは? 次回のコラムで紹介しよう。
第2回へつづく