“レーシングシミュレーター”と聞いて、どういったものを想像するだろうか。実車とは違うモノ、所詮ゲームの延長線上だと考える人も少なくないだろう。
しかし、F1チームやプロのレーシングドライバーが実際にトレーニングで使用したり、シミュレーターでトレーニングを積んだドライバーが実戦で好成績を上げるなど、いまやその重要度は飛躍的に増していることも事実だ。
そんなレーシングシミュレーターについて、ZENKAIRACINGはどう考えているのか、そもそもシミュレーターとはなにか、ZENKAIRACINGのモーションシムの誕生秘話などを、全3回にわたって紹介していく。
第2回は、究極のシミュレーターづくりに必要なモノとはなにかを掘り下げる。
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■リアリティを追求し、五感を刺激する究極のシミュレーターとは
そもそも“究極のシミュレーター”とはなんだろうか。
シミュレーターとはそもそも錯覚を起こさせるモノだというのは前回のコラムで述べたとおりだ。
その錯覚が没入感を生み、さも実車をドライブしているような感覚にさせるシミュレーター。それが究極のシミュレーターと言えよう。
ではそんなシミュレーターに必要なモノとはなんだろう。
それは乗り込んだ瞬間に感じる筐体の剛性感、走り出すと身体に飛び込んでくる音、映像、振動、そしてステアリングを通して伝わるタイヤからのフィードバック、ペダルフィールなどの高品質なインプット要素だろう。
これらの要素がハイレベルに噛み合ったとき、ドライバーに“的確な錯覚”を起こさせ五感を刺激する”究極のシミュレーター”が完成するのだ。
今回はその中でも重要な“ステアリングからのフィードバック”と“剛性感”にフォーカスする。
■的確なフィードバックを再現するステアリング
家庭用のステアリングコントローラーが普及して久しい。
安価なモノから高価なモノまでさまざまだが、よりリアルなフィードバックを得られるコントローラーはどういったものだろうか。
一般的にユーザーが手に取りやすく、それでいてシミュレーターをするには必要十分な性能を備えるコントローラーの多くは、ベルトドライブ方式を採用している。
フォースフィードバックを発生させるモーターが1個ないし2個装備され、そのトルクがベルトを介してステアリングに伝わるというもの。
この方式は比較的安価であり、なおかつフィーリングは滑らか。
しかし、ベルトを介しているというのもあり、モーターの最大トルクを大きく上げることはできない。
そのため、たとえばステアリングを重くしたとき、その重さを表現するためにモーターのトルクを使い切ってしまう。それでは路面の凹凸が再現しきれないほか、クルマの挙動を100%再現するには不向きである。
その問題を解決したのが、大容量モーターをステアリングに直付けしたダイレクトドライブ方式のコントローラーだ。
ベルトを介さないため、モーターのトルクを直に感じることができるほか、強いトルクを発生させるモーターを使用するため、より細やかな路面の凹凸の再現が可能だ。
また、クルマの挙動変化もダイレクトに伝わるため、クルマのヨーの変化や姿勢変化も感じ取りやすくなる。
ダイレクトドライブのステアリングコントローラーは、“的確な錯覚“を起こさせるための重要なファクターといえる。
■究極のシミュレーターに不可欠な“高い剛性”
高性能なクルマに乗り込んだ瞬間、しばしば「これはただ事じゃ済まないぞ」と思わせる重みを感じることがある。
ボディ、脚の硬さ、座った瞬間の引き締まるようなフィーリング、クルマを動かした瞬間のシッカリ感。
そんな高い剛性感をシミュレーターで感じたことがあるだろうか。
数多くあるレーシングシミュレーターのなかで、そのような高い剛性感を意識して作られているものはそう多くなく、「シミュレーターに剛性が必要?」そう疑問に思うのも無理はない。
では、剛性の低いシミュレーターはどうなってしまうのかを考えてみよう。
たとえばステアリングを切ったとき、剛性が低いと筐体自体にねじれが発生する。
特にダイレクトドライブのステアリングコントローラーは、強力なトルクを発生させるため、通常のデスクや骨組みではすぐにねじれてしまう。
するとどうだろう。ドライバーは無意識のうちに、ステアリングからのフィードバックのほかに筐体のねじれも感じてしまい、的確なフィードバックを得られない。
そしてクルマの動きを100%掴むことができず、シミュレーターでのトレーニングは意味をなさなくなってしまう。
一方、剛性の高いシミュレーターではどうだろう。
筐体自体にねじれなど無駄な動きは一切なく、ステアリングのフィーリング、ダンパーを通じて感じるクルマの動きがよりリニアにドライバーに伝わってくる。
フラフラとする動きもなく、ドライビングにも集中できる。
ここに“的確な錯覚”を生む重要なカギが隠されているのだ。
ステアリングのフィードバックをいくらリアルにしても、ダンパーの動きを実車にちかいものにしても、筐体自体が弱ければそのリアルさをドライバーが感じることができない。
筐体自体が高い剛性を持って初めて、フィードバックのリアルさがドライバーに伝わり、“的確な錯覚”を生むことができる。
これが究極のレーシングシミュレーター作りといえるだろう。
■レーシングシミュレーターの次なる可能性
さまざまな要素がハイレベルに噛み合うことで完成する究極のレーシングシミュレーター。
そんな究極を目指すZENKAIRACINGシミュレーターはどのようにして生まれたのか、そして今後どのような進化を遂げて行くのか、第3回で紹介していく。