2023年5月某日。
ZENKAIRACINGメンバーは、静岡県にある国内有数の国際サーキット『富士スピードウェイ』にて、近年クラブマンレーサーを中心に人気を博している、ウエストレーシングカーズのレース専用車両『v.Granz(ブイ・グランツ)』の走行機会を得ることが出来た。
実車経験の有無や、得意としているSIMのカテゴリーも様々なZENKAIRACINGメンバーが、このレーシングマシンを体験し、どのような印象を得たのかをまとめてみたいと思う。
■シミュレーターの効果
今回初めて国際サーキットを走行したZENKAIRACINGスタッフの塩谷は、「シミュレーターをたくさん乗ってきたので、クルマの操作には全く問題はありません」と語る。
「最初こそスピード感や横Gへの対応が必要だったが、慣れてしまえばライン取りやタイムの詰め方は全くシミュレーターと一緒でした」
「自分より速いマシンがたくさんいる走行枠でも、最初のうちからミラーをみて譲る余裕があります」
初のレーシングカー、初の国際サーキットという条件の中、周りの状況を見て走ることが出来たのは、普段のシミュレーターによる経験が実車に活かされるということの証明と言えるだろう。
■シムと現実、大きな違いは“タイヤ”にあり
では、シミュレーターと現実の違いはどこにあるのだろうか。
全スタッフが口を揃えていうのは「タイヤの表現」という点だ。
「シムだと、路面からダイレクトにステアリングにフィードバックが伝わってくるが、実際には路面からタイヤを介してステアリングに伝わってくる。ここの表現が難しいところです」
そう語るのはZENKAIRACINGスタッフで、2023年シーズンのFCR-VITAに出場している兒島。
「タイヤのヨレやジャダー、ステアリングを切った時に手が持っていかれる感じをシムで表現したいですね」
また、2日間走行したうち、初日はウェットコンディション。そんな状況でのフィードバックも気になるところだ。
「ウェットの練習プロセスをシムで詰めて行きたい。(ステアリングからの)インフォメーションが少ないなか、どのようなプロセスでタイムを詰めていけばいいのか、シムでさらに表現できればいいなと思います」
また、「レーシングカーのクラッチに戸惑った」と語るのはZENKAIRACINGスタッフの大越。
「ゼロ発進時のクラッチが繋がるフィーリングをうまく表現できれば、スタート練習等にもシムを活用することができるのではないかと感じました」
ペダルの感覚は車種ごとに違いがあり、それはSIMデバイスでも同じ。
このクルマの練習にはこのペダル…というような、“適材適所”を知ることが出来れば、レーシングシミュレーターには更に活用する余地が残されていることを感じた。
■実車を経て見えた、シミュレーターの課題
シミュレーターの今後の課題
富士スピードウェイでv.Granzを体感したZENKAIRACINGスタッフが口を揃えていうことは、「タイヤのフィーリングをFFBで再現したい」ということだ。
シムのFFB設定をする際、どうしても“路面の凹凸”や、 “ステアリングの重さ”に気を取られてしまう。
しかし、路面からタイヤを介してステアリングに伝わってくるもの。
ステアリングを切るとタイヤがヨレ、路面と擦れ合い、ゴリゴリとした感触が出たり、、、
そのような“ゴム感”をどう表現するかというのがシミュレーターの課題だろう。
■SIMUCUBEでの再現
実際の走行を終え、東京に戻ったZENKAIRACINGメンバーは、さっそくシミュレーターへのフィードバックに着手した。
全スタッフが感じた“タイヤのゴム感”をシミュレーター上でより表現するために、SIMUCUBEのパラメータを変更してみることに。
True Drive内に“Simucube Force Reconstruction filter”という項目。この数値を普段は1にしていた。
そうすることにより、路面のアンジュレーションが細かく瞬時にステアリングに伝わってくる。
しかし、“ゴム感”を出すためには、路面とステアリングの間にタイヤがあるということを表現する必要があると気付いた我々は、フォーミュラカーであれば3~5、箱車であれば5~8という比較的大きめの数値に設定することに。
すると、タイヤのヨレ、ゴム感の再現度が上がり、より実車の近いリアルなフィードバックを実現することができた。
あくまでこれは一例だが、SIMデバイスやMODはセッティング次第で様々な挙動を見せてくれる。
当然ながら実車の再現には実車の経験が不可欠であり、今回のv.Granzでの走行で得た課題と、それをクリアする方法を得られたことは非常に有意義なものとなった。
■SIM活用の探求
今回、2日間の走行でウェット・ドライ両方のコンディションで走行することができたが、初日のウェット路面を走行したスーパー耐久参戦ドライバーの岡田は「やはり現状、バーチャルからリアルへの壁として、ウェット路面でのスキルを磨く手段が少ないことは気になりますね」と語る。
濡れた路面でのサーキット走行は、もちろん滑りやすいことも難しい要因だが、“雨ライン”と呼ばれるウェットコンディション特有の走法や、刻々と変化する状況への対応力が求められる。
この辺りは今後のSIMソフトの進化にも期待したいところ。
また「4点式のシートベルトやヘルメットなど、装備品は意外に着けているだけで身体に負担がかかって、SIMしかやってきてない方が実車に乗った時に戸惑う要素のひとつだと思います。
SIMで最大限のシミュレーション効果を狙うなら、SIMでもシートベルトで身体を押さえつけて、HANS付きのヘルメット被って、身体にかかる負荷を同じにしたうえで走り込むのも大切かもしれませんね」とコメントを残した。
SIMデバイスやソフト、ポジションに拘った筐体など、近年レーシングシミュレーターを構成する“道具”は驚異的な速度で進化してきている。
その“道具”を如何に上手く使っていくのかも、ZENKAIRACINGでは探求していきたい。
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また、ZENKAIRACINGではこのv.Granzを使用し、富士スピードウェイで開催される『MEC 120 Minutes Endurance Challenge』にも出場を予定!
v.Granzという車両の理解、そしてバーチャルとリアルの隔てがない世界に向け活動していきますので、続報にご期待ください!